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「シンジロさんだけが私の味方だった。二人でここにしようって決めた時、外に桜咲いてた」
「あの窓から見える堤防のところですね。以前お伺いしたときに私も見ました」
そう、と言ってたお茶を含む雪華。今は雪が乗り、白い花が咲いているようだ。
「桜の下歩いて、いつまでも一緒にいようね、って約束した」
彼は持病のことは伝えていなかったのだろうか。遅かれ早かれ発病することは判っていたのに。言わなかったのか、言えなかったのか。
「愛してた。本当に。家族捨てていいと思った」
「知ってますよ」
春海が彼女をまっすぐに見る。私は知ってる。貴女の中には彼しかなかった。持てる愛の全てを使って彼を看ていた。
固い彼女のまなじりから一筋の涙が零れる。
「泣いていいんですよ」
「泣いたら叱られた」
「我慢したら私が叱りますよ」
嗚咽が次第に慟哭に変わる。
「シンジロさん、独りぼっちにしないで……」
あの時も、病院で叫んだ。でもあの時より楽に泣ける。春海が側にいるから?泣いていいと言ってくれたから?
春海は少し視線をずらして見守ってくれている。
高ぶった気持ちも落ち着きはじめた頃、春海の携帯が震え出した。相手の名前を確認して、すみませんと席を立ち外に出て行った。携帯を見れば既に5時。外は真っ暗だ。
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