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「済みません、そろそろおいとまを」
戻ってきた彼女の顔は蛍光灯の下で見るせいか青白く見えた。何だか焦っているようにも見える。
私みたいな面倒な客、他にもいるんだな。一人納得した雪華は
「ごめんなさい、引き止めて。また電話してもいい?」
正直迷惑だろう。仕事でも無いのに愚痴を聞かされるなんて一円の儲けにもならない。判っていて聞くなんて。
少し考えた風の春海がおもむろに手帳を出し、名刺を抜いた。手早くそこに書き付け、彼女に渡す。
「個人の携帯です。こちらに」
「すぐ登録する」
「………しないで。そのまま持っていて」
何で?雪華には意味がわからない。
「辛くなったら電話を下さい。いつでも出ますから。出られなかったらかけ直しますから安心して」
春海が柔らかく微笑んだ。
気がつけば雪華は最初の出会いの時と同じように、彼女にしがみいていた。
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