喪失

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そろそろ携帯の電話帳整理しないと。友人よりも顧客の電話番号の方が遥かに多くなっている。 エンジンをかけ、サイドブレーキを下ろしながら春海は思い返す。 グリーフケア(近親者を亡くして歎き悲しむ人の側に寄りそってサポートする)は彼女の業務の範疇外だ。それでも仕事柄こういうことは日常茶飯事に起きる。 大抵の人は二度と掛けてくることはない電話。それがいい方向に気持ちが向かったからだろうと、一人納得している。 雪華の事は多分、中々忘れられないだろう。 雪華は知らない事だが春海は5年前、信二郎が退院直前だった時に一度病室を訪れていた。他の用件で病院に立ち寄ったのだが、退院も真直なのでついでに顔を出そうと思いたち、病室を覗いた。 白い部屋。寝たきりで声一つあげない夫。 そんな夫に呟くように 『貴方が死んだら私どうすればいいの?』 と声を掛けていた雪華。 いたたまれずに、その日は声を掛けずに立ち去った。 (友達になれば寧ろ辛くなるよ、私を見る度に) だから、静かに応援してる。貴女が早く笑えるように。偶然私に出会ってもその節は、と軽く挨拶が交わせるように。 (笑って。貴女の笑顔は貴女の名前より綺麗よ)
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