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「じゃあお骨は私が預かるからね。こっちで墓に入れる段取りするから、日取り決まったら電話するわ」
セレモニーホールと火葬炉が一緒になっている市営の葬儀場から、そのまま雪華たちのマンションにつけた車内で、断りを入れる義姉。
昨日降った雪が道路の隅や日の当たらない場所に残っている。
「ハイ」
雪華に決定権がある訳がない。夫は生前の約束通り、生家の墓に入る。法事も生家の方で執り行う。彼女と結婚する時の二つの条件の内の一つ。
「雪華、ここの名義は貴女に変えてあるから。売ってもいいのよ、あの子が貴女に残したものだし。住みつづけるならそれでもいい。維持費はかかるけど」
さっさと売って、出て行けということかしら。金を持って国に帰れ。彼女の耳にはそう聞こえる。
「ベッドなんかももう要らないなら、業者に頼んで引き取ってもらったら?」
シンジロさんの思い出を全て消し去れということ?口元に笑顔を貼付けた義姉に告げる言葉が見つからない。だから、いつも通り
「カンガエマス。スコシ」
深々と頭を下げて、吹き付けた雪がそのまま残る通路を足跡を残しながら、部屋に向かう。一階の端っこ。角部屋といえば聞こえはいいけれど、実際は西日のキツいエアコン必須の部屋。
今は冬だから、まだ楽。
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