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『レンタルで十分ですよ』
懐かしい声が耳に蘇る。私だって、そうしたかったけど。雪華の手がベッドヘッドの樹脂ボードを掴む。
状態に合わせて入れ替えも効くし、何より介護ショップの担当者が、何かと電話をかける雪華に根気よく付き合ってくれた。
何とか日常がユルユルと動くようになった頃、保険会社から電話が入った。保険金の支払いについて担当者が説明の為、訪問するという。
話を聞くと、彼の入っていた保険は介護用品を購入した場合に限りお金が下りるという種類のものだということが判った。
すぐさま介護ショップに連絡をし、一週間後には部屋にある介護用品は全て購入品に入れ替った。
その直後から信二郎の容態は悪化していった。入退院を繰り返し、更に入院期間がどんどん長くなっていった。
それからの彼女は彼のために金を使うことで、達成感を感じるようになっていった。
介護ショップに電話をしなくなった代わりに通販や怪しげな団体に電話を掛け、商品を取り寄せた。
お金で何とかなるのなら。
雪華は密かに夢みていた。状態が落ち着いたら。知り合った頃と同じ様に連れだって歩けるかもしれない。歩けなくても、車いすでもいい。満開の桜の下で、あの時と同じように愛してると言って貰えるかもしれない。その時はお義姉さん達も、あの時はお前よく頑張ったねと認めてくれるかもしれない。
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