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今日はもう疲れた。少し眠りたい。
名刺をジーパンのポケットに入れ、夫のベッドに転がる。
6年、闘病生活を続けた夫。放射線治療や薬三昧の日々、最後は髪も抜けて出会った頃の面影もなかった。
それでも、彼女は必死に頑張った。
「シンジロさん」
病院での失態が親戚連中の気に障った事を知った雪華は、葬儀の間は泣かずに堪えた。夫の棺に火が入る前に蓋をずらして最後の別れを告げたときも、唇を噛んで堪えた。
今は涙どころか、目が乾き過ぎて瞼が閉じれない。
「うん、ママ。………それで。OK。じゃあ来週からお願いします」
久しぶりに話す北京語。雪華は既に一本目の電話で疲れきっていた。これから一人で生活を成り立たせなくてはいけない。高度治療や高額医療還付で返って来る分もあったが、闘病生活が長かったために貯金は底を付いている。遺族年金は入るようだけれど、心許ない。保険金も入るはずだが、銀行での借り入れもある。まだ、あちこちに名義の切替や死亡の連絡を入れないと行けない。とは言え、複雑な手続きになると雪華一人では難しい。
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