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外でバラバラッと道路や壁をたたき付ける音がする。夫の部屋のカーテンを開ける。曇った窓硝子から一気に冷気がやってくる。
霰が降っているようだ。手で硝子をこすれば病院で見たときよりも山は白くなり落葉樹は埋もれ、杉は黒い先端が少し見える程度。堤防は………見ない。
(シンジロさん逝ってから五日か)
昼に近い時間とは言え、外は暗い。冬が深くなっている。暦の上ではもうすぐ春節。雪華は母の作ってくれた餃子が無性に食べたくなった。
丁度3時に玄関のチャイムがなった。相変わらず時間通りの人だ。
雪華がドアを開ければ、4年ぶりに見る介護ショップの店員が立っていた。
「この度はご愁傷様でございます」
言い慣れた台詞なのか、言葉の最後の方は聞き取りづらいほど小さく消えていく。
「上がって、春海さん」
ハルミと呼ばれた黒のパンツスーツを着た背の高い女性が、失礼しますと玄関を上がった。
購入履歴は事務所でも確認済みだったが損傷部分があっては引き取っても使えない。
春海はベッドや車いすの駆動、傷の有無をチェックしていく。
「使用年数と傷の付き具合から、大体このくらいですね」
電卓で金額を提示する。廃棄処分で手数料取られる位ならマシかと思えるほどの引き受け額だが、雪華は得に金が欲しいわけではない。
「いい。それで」
春海はチラリと雪華を見下ろし、
「では明日にでも改めて引き取りに伺います」
雪華が大きく首を振り春海に告げる。
「今引き取って」
彼女が固まる。
「では、もう一人呼びますので」
「貴女だけで。他の人来るのイヤ。私も手伝うから」
暫く雪華の目を見つめていた春海が穏やかに笑った。
「わかりました」
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