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つまらなそうに眺めていた雑誌を閉じると、テンは、クルリとイスを回転させ、カウンターに両肘をついて寄りかかった。
「おはよ~、テン。うわぁ、相変わらず、面倒くさそうな顔ぉ」
一度、軽く顔を覗き込んだ後で、リタは、テンの隣に座った。
「起きて30分経ってないからなぁ~、テンは」
店主の言葉に、リタは、カウンターから向こう側を覗き込んだ。
シンク、置いたままの食器がある。
「ホントだ……」
「仕事の前に一杯飲むか?」
店主が、ようやく、2人を振り返った。楽しげに口元を、緩めたままで。
「お願いしまぁす」
リタが、笑顔を返す。
テンは、カウンターに両肘をついた形のまま、考え込んでいた。
「テン、お前は?コーヒー、もういいのか?」
リタの分のコーヒーを注ぎながら、店主がテンの背中に尋ねた。
「ん~……もう一杯、欲しい」
「テン~、そろそろ目ェ覚ませよ?」
淹れたてのコーヒーを受け取って、リタは、立ち上がる湯気から香る、独特の匂いを楽しんでいた。
「起きてるってば……」
背中を向けていたカウンターに、クルリとイスを回転させて向き直る。
同時に、店主がコーヒーを差し出した。
「テン、それ飲んだら、エプロン着けてこい」
「はぁ~い……」
やる気なさげに店主に応えて、テンは、早速コーヒーを口に含んだ。
「テン、今日は、何を作る?準備しとくよ?」
隣で、同じコーヒーを味わうリタは、変わらず楽しげに笑みを浮かべていた。
テンとは対照的に、リタは仕事が楽しくて仕方がないといった様子だ。
「んーと……シフォンケーキ、フォンダンショコラ……あと、クッキー」
「了解。でも、足りる?」
「ここは、コーヒー豆を売るのが本業。お前がヘンにサービスしなきゃ、足りてんの」
テンの嫌味も、リタは余裕の笑みを返した。
「テンが愛想よく笑ってくれたら、ヘンにサービスしなくても、お客さん来るんだけどなぁ?」
「……ロールケーキも追加で」
テンは、悔しげに眉間に皺を寄せた。
「了解」
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