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カップに残るコーヒーを飲み干し、リタはイスを降りた。
「店長、ごちそうさまぁ」
礼を言った後、カウンター裏でカップを洗う。リタはもう、仕事を始めようとしていた。
仕方なくテンも、カップの中のコーヒーを飲み干すと、長い間座っていた席を離れた。奥にあるスタッフルームの扉を開ける。テンは着ていた薄手のコートを脱いで、ロッカーにかけ、カフェエプロンをしっかりと腰に巻き付けた。面倒だが、これから8時間はお仕事だ。短く息をついて、リタが準備をしているカウンター奥の厨房へ向かった。
ここRufellviaは、コーヒー専門店。
コーヒー豆から、ドリッパー、コーヒーポット、コーヒーミルなどの小物類を売るのが本業だ。
しかし、店の隅には、テーブルが3つと、入ってすぐにはカウンター席が設けてあった。ここで売っている豆を使って、カフェもしているのだ。
リタとテンは、カフェで出すお菓子の製造及び、ウェイターとして働いていた。
レジ横のかごに、透明な袋に小分けしたクッキーをセットしたら、開店準備は完了。
外にある、濃い茶色の扉のすぐ脇につけられたランプに、オレンジの明かりが灯る。周囲に賑やかな店ばかりが並ぶ町の、小さな広場の中で、
Rufellviaの開店の印は、この控えめなオレンジの明かりだけだった。
明かりが灯ってすぐに、入り口の扉につけられた2つの鈴が、来客を知らせてリンと涼やかな音をたてた。
3人の視線は、開店早々に入ってきた小さなお客に集中する。
「いらっしゃいませ」
リタが、優しい笑みで、小さなお客に声をかけた。
入り口で、店の中をキョロキョロと見回すのは、Rufellviaの近所に住む少年だった。もうすぐ誕生日で、6歳になる。
リタは少年を見つめて、彼の父親が、店長と知り合いだったことを思い出していた。大通りでクルールというカフェを営んでいる。
「どうした?レイ、お使いか?」
小さなお客、レイと目線を合わせるために、リタは、彼の前にしゃがみこんだ。
レイは、黙って頷いた。
「パパが風邪引いててね……」
「ママが看病してるから、代わりに来たのか?」
今度は、首を横に振る。
「あのね!パパが風邪だから、コーヒー淹れてあげるの!元気になりますようにって」
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