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リタが、レイの頭を優しく撫でた。
「そうか、そうか。偉いな~、レイ」
レイは、恥ずかしそうに笑った。
「これで、足りる?」
ズボンのポケットから、財布を取り出す。青い色をした、小さな丸い形の小銭入れを両手に乗せて、レイはリタに差し出した。
ジッパーを開けてみると、紙幣が2枚と高額の硬貨が数枚入っていた。
「お?レイ、金持ちだなぁ」
リタがびっくりして言った。お世辞ではなく、本心だ。
レイは、それを聞いて得意気に笑った。
「おこづかい使ってないもん。ねえ、足りる?」
「うん、お金は十分足りるけど、ママは?ここに来たこと、知ってんの?」
「内緒だもん。ママにも淹れてあげるんだよ。僕1人じゃ、買えない?」
「そんなことないよ~?向こうのテーブルで待ってな?今、店長がイイの選んでくれるから」
嬉しそうに頷いて、レイは、リタに言われた通りにテーブルへ駆けていった。
カウンター裏から、店主が豆を選びに姿を現す。
「風邪にコーヒーねぇ……」
店主が、クスクスと喉の奥で笑う。
「いーじゃないですかぁ。子どもの精一杯の気遣いですよ」
「犬も喰わないって言うけど、子どもにしてみりゃ、一大事だからなぁ」
2人の会話を他人事のように聞きながら、テンは、カウンター裏からレイを見やった。嬉しそうに、店内をキョロキョロと見回す、小さな少年。
「健気だよなぁ?」
いつの間にか、店主は挽き終えた豆と共にテンのすぐ横にいた。
カウンター席から、リタもテンをじっとみつめていた。
「パパとママの夫婦ゲンカの仲直りを密かに計画するなんて、なかなかできないですよねぇ~?」
意味深な2人の笑みが、テンに突き刺さる。
彼らの意図を察して、テンは、顔をしかめた。
「そうですね……」
「ほら、見てみろ?」
店主が、テンの肩に手を回して、レイを指差す。
「何でしょう?」
「何かこう……哀愁漂ってるよなぁ、あの横顔」
わざとらしい店主の口調を、テンは、軽く流した。
「気のせいですよ、店長」
「なぁ、テン~」
情けないリタの声に、テンが目を向けると、両手を祈りの形に組んで、こちらへ懇願の視線を送っている。
「一生のお願いっ!な?」
「お前、何回一生送る気だよ……」
今まで飽きるほど聞いたこの台詞。テンは、呆れてため息をついた。
「な?テン~。痛めた小さな心を癒してあげたいだろ?な?な?」
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