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「仮面作りたいの、私」
とある駅。まるでそこにいる人全員が、下を向いているような空間。
2番線のホームに面する小さいベンチに、女子高生が二人座っている。彼女たちはもうすぐ来るであろう冬に備えたのか、厚い生地の制服にマフラーといった服装で、紫色に塗りつぶされた空を見つめていた。
何の突拍子もなくそう言ったロングヘアの女子は、眉を少し上げマフラーで口を隠した。その様子を見ていた隣のショートヘアの女子が、彼女を不思議そうに見つめ口を開いた。
「どうしたの。急に仮面だなんて」
「あ……うん。ごめん、なんでもないよ」
ロングヘアの彼女は、軽く笑った後、鼻でため息をついた。そして、
「実はね。私、あこがれている人がいて。仮面を作ればその人になれるの」
と言った。
それを聞いたショートヘアの女子は一瞬、きょとんとした顔をした。かと思うと笑いだした。何かにはじかれたように。
「ちょっと。笑わないでよ」
ロングヘアの女子は顔を赤らめながら隣の女子を小突く。
そのとき、ホームのスピーカーから「黄色い線までお下がりください」という放送が流れる。
「そろそろだね、行こう」
ロングヘアの女子に誘われ、ショートヘアの女子もベンチから立ち上がる。
ショートヘアの女子はホームの黄色の線ぎりぎりの場所に立った。彼女の目は、紫色の空を高く飛ぶ鳥を反射する。そして彼女は唇の渇きを感じたらしく、制服のポケットからリップクリームを取り出した。が、あることに気づき、いったん取り出したそれをポケットの中にしまった。
「あれ、浄美(きよみ)ちゃん。どうして背後にいるの?」
浄美と呼ばれたロングヘアの女子は、ショートヘアの女子の隣ではなく真後ろに立ち、手をポケットに入れ、ただひたすらに下を見つめている。その様子を見たショートヘアの女子は軽くため息をつくと、こう言った。
「浄美ちゃん、わたしは変わってほしくないな。絶対そのままのほうがいいよ」
「……」
電車がはるか遠くに見え始める。
ショートヘアの女子は話を続ける。
「だって、浄美ちゃんのほうが髪サラサラだし、頭いいし」
「……」
電車の最終車両が姿を現す。
「あと、浄美ちゃんの方が美人で大人っぽいなあ」
電車が近づいてくる音が聞こえてくる。
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