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「俺は明日、魅花さんに告白するぞ」
「まじかよ」
「どうせ振られるんなら、浄美さん狙ったほうがお得だろ」
「そんなことしたら水掛の人生終わるぞ」
「良い精神科病院が俺んちの向かい側にある」
既に授業が終わった夕日が照らす「1-D」の教室。その一角で、5人の男子がおしゃべりをしていた。皆、紺色のブレザーと赤色のネクタイを身につけていて、窓に映る彼らの姿はあまり区別がつかない。その中の一番身長が高い男子が苦笑いをすると皆を諭すかのように立った。
「待て待て、何でおれが振られる前提になってるんだ。精神科になんて絶対お世話にならないからな」
「おい、隠冬(やすと)、帰宅部のお前が、忙しい吹奏楽部員の魅花さんと釣り合うわけないだろ」
明日、魅花に告白する背の高い男子は、水掛(みずかけ)隠冬という名だった。彼が引き締まった体をしていることは制服の上からでもわかる。彼は怪訝そうな顔をすると、眉にかかる前髪をそこはかとなくいじる。
「そうだよやめとけ」
「あっちは忙しくて見向きもできねえよ。まあ、付き合えたとしてもデートなんか……」
「いや待て、デートは二の次だ」
隠冬は友人の言葉を遮った。
「じゃあ一番は何だよ」
友人のうちの一人、牧谷が少し怒ったように聞く。先ほど隠冬に精神科病院を薦めたのが彼だ。隠冬はそう問い詰められると椅子に少し顔を赤らめ、椅子に座りながら口を開いた。
「まあ、何だろな。と、とりあえず廊下とかでいろいろ話したり……あと、魅花さんと一緒に帰ったり。あと昼飯も屋上とかで……」
「ダメだ。こいつはダメだ。青春を何となく味わいたいだけだよ」
「それに屋上は使えないの知ってる?」
「あ……」
「ダメだこりゃ」
隠冬以外の男子がやれやれというようにため息をついた。
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