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放課後。隠冬は一人にやつきながら廊下を歩いていた。告白が成功したのだ。デートも約束した。しかも今週末。そのうえ牧谷たちを絶望させることができた。そして何より嬉しいのは、魅花が自身を受け入れた理由。にやつきを解消するのはもはや不可能。隠冬は口を押さえて変態と間違われないようにした。
「魅花ちゃんがいいなあ」
隠冬のにやつきが止まる。突然誰かの声が聞こえてきて、しかも魅花について話している。少々不気味だった。
彼がその時歩いていたのは、生物実験室の前。いつもは授業の時以外鍵がかかっている。しかも聞こえてきた声は教師のものではなく、若い声。かなり怪しい。しかも、どこかで、聴いたことがあるような。
「やっと決まったのか。お前にしては遅いね」
この声を聴いて、隠冬は、いま会話しているのは、六条兄妹だと確信した。何故彼らが自分の彼女について話しているのか。何やら不安を感じ、必死に耳をそばだてた。
「まあね。ちなみに今日、魅花ちゃんが水掛君に告白しててね。昨日までは私にとってただの人だったんだけど、今日の告白聞いて、私、ドキドキしちゃったの」
「へえ」
「『へえ』じゃない! いままで、彼女のことを勉強も部活も頑張るまじめでしっかり者で近寄りがたい子だと思ってたけど、そんな彼女がね、彼から告白されたときに頬を赤らめて『よろしくお願いします』って言ったんだよ! あれを見たとき思ったの、この子にしようって」
「なるほど。で、段階はどう踏む」
「とりあえず、観察と触れ合いは4か月くらいにするよ」
「長いな」
「うん。魅花ちゃんのこと、まだあんまり知れてないから」
隠冬はこれがどのような会話かが全く理解できなかった。だが、不快感、恐怖感は覚えていた。彼はこのことをできるだけ早く忘れようと立ち去ろうとした。
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