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「何だこれ」
隠冬は仮面の裏側に書いてあったものを見て、声を出してしまう。
目が筆で描かれていた。裏側であるのに。しかも、その目は明らかに浄美のものではない。記憶の中の浄美の瞳と比べると細く、少々つり上がっていた。
もう一つ気になる点があった。表側であれば口になる位置に「梢」とこれまた筆で書かれてある。
隠冬は表側の瞳と裏側に描かれた目を見比べた。明らかに違うものだった。隠冬は見比べるのをやめると、裏側の目だけに集中し、誰の目なのかを突き止めようと思った。
答えなど出るはずがなかった。だが、彼はもう裏側の目を凝視することしかできなくなっていた。
裏側の目が近づいてくる。描かれた目の虹彩が、徐々に、はっきりと、見えてくる。
その時、ある怪談話が頭を駆け巡った。目を見開いた隠冬は勢いよく顔を仮面から遠ざける。怪談話とは小学生のころ聞いた、ある男が怪しい仮面を被ったらその仮面が取れなくなったというものだ。
自分もそうなってしまうかもしれない。その恐怖が、隠冬を仮面から遠ざけていた。隠冬は教室の窓のほうにゆっくりと近づく。すると彼は窓を開け、仮面を持ちながら外に向かって振りかぶった。
これで、とりあえず怪しい仮面から解放されると隠冬は思った。
だが。
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