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それが聞こえた瞬間、隠冬の体は宙に浮いていた。
思わず、何かを必死につかもうとしたが、無駄だった。
隠冬は頭の整理が追い付かず、手足をバタバタさせた。その時、仮面を被ったままの彼の体は左に傾き、教室の黒板に向かっていった。
そこでようやく状況把握をできた隠冬。今日から付き合うことになった人が恐ろしい女に命を狙われることになり、その恐ろしい女の顔をした奇妙な仮面を見つけ、その仮面がなぜかくっつき、変な声と変なお経が聞こえたかと思うと、突然体が言うことを聞かなくなり、黒板にぶつかる。己の不幸さを身にしみて理解した隠冬は、せめてこれから起こる痛みには耐えられるように目を固くつむった。
だが。
痛みはなかった。
むしろ、スース―とした空気が自身の体を通り抜けていく。そして、かすかに聞こえる、信号機の音、子供の声、鳥の鳴き声、川の音。まるで、空を飛んでいるみたいだ。ただ、悲鳴や驚きの声が隠冬には聞き取れない。誰も、空を飛んでいる彼の姿を見ることができないのか。
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