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「えー! 笹川くん、帰っちゃうの? 」
綾女子との合コンに来たものの想像以上の甘ったるい香水の匂いに笹川は気分を削がれ苦笑いしながら謝った。
「ごめんね。本当は二次会も行きたいけどちょっと用事思い出したからね。また、今度遊ぼうね」
当たり障りの無い言い訳でやんわりと断り何とか帰れるようになった笹川は一人繁華街を歩いていた。
大学も推薦が決まり後は高校を無事卒業するだけ。
性欲処理が必要な時は女を呼べる。
「あー、おもしんねー 」
不意に出た本音と同時に笹川の目に一人の男が目に入る。
寒空の中、全ての人間が皆足早に過ぎていっている中にその男もいた。
しかし、その様子はどこか変で初老の男の腕を掴んでなお引っ張られている男は笹川が昼間学校でぶつかったあの小柄な男だった。
笹川は自然に近づいていけば少しづつ声が聞こえてきた。
「……奥さん…バレないよう……ます…。先生の一番は……さんでいいから……」
昼間の声とは違う縋るような悲痛な声。
更に近づけば
「僕を捨てないでください……」
と通りすぎると同時にそんな言葉が聞こえた。
一瞬みた小柄なその顔には涙が浮かんでいて、それが笹川にはとても扇情的に見えた。
一度通り過ぎた笹川だったがその場に止まりポケットからスマートフォンを出すと録画モードにしてこっそりと二人の痴情のもつれを録画し始めた。
二人を見つめる笹川の口元に弧を描いていた事は本人も気づかないのだった。
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