最終章 放出されゆく

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暗闇の中で沈んでいた意識がゆっくりと浮上していく。 まるで空気を求めるように光る水面に向かって、上へ上へと浮かび上がる。 その光の元まで辿り着けば桐島は眩しさに覚醒されて、ゆっくりと己の瞼を開いた。 しかし既に外の世界も真っ暗になっており、閉じていた時と代わり映えのない景色である。 「...まっ..くら」 小さく漏らした言葉は乾燥しており渇いた音しか出せなかった。 闇の中で記憶を辿る。 自分は確かタオルを突っ込まれ、声を出せなかった事。 出しても出しても水分と一緒にタオルに吸収され口の中はカラカラになっていた。 そのタオルが如何やら外されているのだ。 「..こえ..だせる」 瞼を開けて幾分の時間が過ぎれば真っ暗な部屋にも目が慣れてきた。 少しづつ感覚を取り戻していく中で、体の痛みが段々と鮮明になってくる。 治りかけの濃紺のアザの上には更に新しい鬱血痕ができていた。 所々にある無残な噛み跡は見る者を痛々しくさせてしまう。 ずっと拘束されていた為に腕は強張っており手首に至ってはきっとアザもできているであろうと推測した。 内側から湧き上がる痛みに顔を顰める桐島。 無理矢理体を動かそうとすれば痛みは更に増した。 「っ.....」 その時桐島の側で影が動くのが見える。 桐島は咄嗟に音の鳴る方に顔を向けた。 夜目に慣れた瞳が笹川の姿を捉え、桐島は目を見開く。 「...先生...起きたんですか? 」 そんな桐島に笹川は冷静に問うた。
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