最終章 放出されゆく

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暗い教室の中で響く笹川の声があまり理解できなかった。 『送っていく』という突然の申し出に桐島は戸惑ってしまう。 「いや...あの、大丈夫ですよ? 」 それでも送ってもらう気など毛頭ない為にやんわりと断りを入れる。 「...先生を送って行きます..から」 己の掠れた声が聞こえなかったのだろうか。そう思いもう一度同じ言葉を発しようとすれば笹川の言葉が更に続いた。 「動くのが億劫でしょう? 」 見上げた先にいる笹川。 暗闇の中で余り表情が見えない今。 声色だけで笹川の心情を探るのは難しかった。 桐島は痛みの残る体に鞭を打ちながら、ゆっくりと上半身を起こす。 パサリと衣類が落ちる音がして、体に上着をかけられていた事を知る。 笹川との距離が近くなり、その姿をはっきりと見ることができた。 胡座をかいて、後ろの机に凭れかかっており、その瞳は伏し目がちに床を見つめている。 「あの...笹川くん...別に時間さえ経てばなんとかなりま...」 そんな笹川に掠れた声で囁く。 言外に『だから大丈夫です』と意味を込めるがその言葉は笹川から遮られてしまう。 「志免も俺も先生に無茶させました...」 静かにポツリと呟いた言葉は、暗い教室の中で響いた。 「...すみません」
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