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『...先生は男を馬鹿にさせる...魔性だよ』
目の前の笹川を見つめながら、嗤う志免から言われた言葉を思い出していた。
『先生はなんか、男の理性を取っ払っちまうのかもなー』
志免の陽気な声が頭の中をぐるぐると回り気持ち悪くなる。
しかし、目の前に項垂れる笹川を見れば『あながち間違いでもないのかも』などと思ってしまう。
決して自分がそんな魅力的な人間などとは思ってはいないのだ。
それどころか捨てられた相手を未だにネチネチと想い、その為に笹川を利用してしまう狡猾な人間なのである。
そんな浅はかで愚かな自分を魅力的などと思うことなど到底できない。
それでも感じた笹川からの執着や伝えられた伊藤の気持ちは桐島にとって目を背けたくなるような類の物であった。
そんな笹川の執着をまざまざと見せつけられて桐島を支配するのは罪悪感である。
『確かに暴力なんかはあったけど...それ以上に僕はきっと彼を傷つけてる』
「...笹川くん」
項垂れる笹川の肩に触れる。
「もう、いいですから。顔を上げてください...」
桐島はそっと笹川に声をかけた。
「...終わりにしましょう」
放った言葉は思ったよりも響いて少しだけ吃驚した。
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