最終章 放出されゆく

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洗面台の前で鏡の中の自分と対面し、思い出していた昨夜の出来事。 笹川とのやり取りに意識が飛んでいっていたが、出しっ放しの水の音に感覚が己の元へと戻ってくる。 ジャージャーと水が流れる音を聞きながら、鏡の中の濡れた自分を見た。 「...酷い顔」 確認する様に目元に指先を持ってきて押し当てると薄っすらと隈ができており、少しばかり疲れて見える。 笹川に送ってもらってからはシャワーを浴びて早々に床に入ったというのに、どうにも眠りが浅い気がした。 下半身を始め、体全体が重く動く事が億劫に思えるが濡れた顔を拭き上げ学校へ行く支度をする為に洗面所を後にした。 カッターシャツを着込む前に紺色のタートルネックの服に袖を通す。 先程の洗面台で鏡越しで見えた喉仏にある楕円形。 連なった赤い点を堂々と人に見せれる勇気などなく隠す様にカッターシャツの下に着込んだ。 『この季節で良かった』とホッとしながら用意を着々と進め準備を終わらせる。 それからは出て行くまでの時間をゆっくりと過ごし、いつもの時間になるとコートを羽織って家を出たのだった。
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