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学校までの道のりも、何だかいつもと違って見えた。
勿論、現実的な見える風景は何一つ変わってなどいない。
自分の周りを歩いて学校に向かう生徒たちも。
時折すれ違うサラリーマンやOLたちもいつもの光景である。
只々、桐島の心境によるものなのだ。
此の先に待ち受ける『今日という特別な終わりの日』を前に何ともいえない気持ちになっているのだ。
そんないつもとは違う気持ちの中で歩いていれば、既にお馴染みとなった姿が壁に凭れて桐島を待っていた。
「...いと」
「あっ、キリちゃーん! 」
名前を全て呼ぶ前に桐島に気づいた伊藤がこちらに近寄ってくる。
伊藤が桐島の出勤を待つこの行為は既に日課となっており毎日続いているのだ。
しかし、いつもと様相が違うのは昨日の今日だからだろう。
「もう、キリちゃん! 俺、昨日めっちゃ探したんだからねっ! 」
桐島の前まで来ると伊藤は頬を膨らまし、仁王立ちで腕を組み分かりやすい怒りを表した。
そう、桐島は昨日の放課後伊藤から逃げているところを志免に見つかったのだ。
「...す、すみません」
目の前の伊藤から逃げることはできないと、素直に謝りやながら、昨日『君には関係ありません』と言った時の伊藤の傷ついた顔が脳裏に浮かぶ。
伊藤の目を見ることに戸惑い、立ち止まっていると桐島の手が握られた。
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