最終章 放出されゆく

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そのヒヤリとした感触に桐島を待っていた時間が長かった事を想像させる。 「はあー。キリちゃん、もーいーよ。俺怒ってないし。寒いから早く行こ」 溜息まじりに苦笑しながら言われた言葉。 伊藤は桐島の手を握ると早歩きで学校へと向かい始めた。 一度、チラリと桐島の首元を覆うタートルネックに視線を向けられたがすぐさま視線を外される。 学校までの間、昨日あんなに問いただしていた青アザの件に関しては触れてくることはなく他愛ない話ばかりである。 その心遣いに感謝しながら桐島は手を引かれ校門まで辿り着いた。 教室に向かう伊藤と別れる場所まで来ると、伊藤はギュっと握り締めた手を強く握る。 「伊藤くん? 」 その行為に顔を上げれば伊藤がこちらをジッと見つめていた。 「伊藤くん? 」 手を握り見つめるだけで何も言わない伊藤に向かってもう一度呼びかける。 伊藤は更に桐島の手を強く握りしめるとゆっくりと口を開いた。 「キリちゃんを傷つけてるモノは俺が全部やっつけるから...」 真剣な瞳でそう言ってくる伊藤に目を丸くして見上げる桐島。 「えっ? 」 「キリちゃんは俺が絶対守ってやるからねっ! 」 そう力強く言うと、伊藤はパッと手を離し校舎へと走っていく。 「あっ...伊藤くんっ! 」 呼び止めようにも時既に遅く。 桐島の目には、金色の髪を靡かせ走り去る伊藤の後ろ姿しか写っていなかった。
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