第3章 密かに堕ちてゆく

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1 師走のツンとした空気が空中を覆う寒空の下、腹も満たし終えた昼休みに笹川は屋上に来ていた。 満腹中枢を刺激して眠くなった頭に冷たい風が丁度良く笹川は手摺を背に胡座をかいてコーヒーを飲んでいた。 思い浮かぶのは昨日の光景で、薄暗い第二図書室にて己の目の前で桐島に自慰をさせたのだと、頭の中でその厭らしい光景が繰り返される。 思い出すのは、桐島の白い裸体で。その肌は上気しており、潤んだ瞳とほんのりと赤く染まった頬。 桃色の乳首にピンク色の陰茎。 葛藤しながらも言葉一つで此方の言うことを聞く従順さ。 振られた相手がそんなに大事かと笑いたくもなるが、大事だからこそ、この脅迫が役に立っているのである。 今までそれなりに女と交際をしてきた笹川だが、かつて自分はあんなに他人を大事にした事があるかと問われればそれはノーだ。 女たちと言えば、結局は優しい笹川優吾が好きで、見目が良くデートもセックスもスマート。自分たちが気分の良くなる又は人に自慢できる男が良かっただけなのだ。 女たちの理想でしかなくそこに笹川自身を出すことはなかった。 そして、笹川自身もそんな女の前ではありのままの自分を出す気もなかった。 オトコに関しては、何度か誘われてヤッたものの、性欲処理にはなってもそれ以上の感情が芽生える事なく、特に何も思わなかった。 言われてみれば女も男も結局は理想の恋人を押し付けてくるだけばかりだったのかもしれない。 ヤれば相手の事など忘れてしまう質なのだが今日に限っては桐島の厭らしさと従順さが頭から離れない。 想像以上の『オモチャ』だった事に笹川は顔がにやけるのがわかる。 「さーさーやーん!また、ニヤけてんじゃん」 そんな笹川に気づいたのはやはり親友である志免で、志免は親友の悪いニヤケ顔に大方の予想をつける。 扉から近づく志免の手にはパックのコーヒー牛乳が握られていて相変わらず見た目を裏切る甘党だと思う。 「もしかして、この間言ってた『オモチャ』の事? 」 オレンジ色の髪の友人はキラキラした瞳で尋ねてくる。 「ああ、想像以上だったよ」
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