イケニエ

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「パパ…ごめんね。私、どうしてもママを生き返らせたくて猫を殺しに出かけたの。それで…」 『猫を殺しに出かけた』という言葉にギョッとしながらも最後まで話を聞き終えたパパは、小さく息を吐き出しました。 パパは泥だらけになった麻衣ちゃんを見つめ、子猫を生け贄にしたってママは生き返ったりしないんだよ、と教えてあげようと思いました。 「なぁ、麻衣…」 言いけてパパは、やっぱり考え直します。 昔ママによく言われた言葉を思い出したからです。   『麻衣はまだ子供だから、正論ばかりをぶつけちゃダメ。麻衣の気持ちをよーく考えてあげてね』 そうだった…パパはコホンと1つ咳払いをして、   「なぁ、麻衣。子猫をイケニエにしないで助けてあげてえらかったな。ママを生き返らせることはできなくなったけど、それで良かったんだ。子猫も一生懸命生きている大切な命だからね。麻衣は、途中でそれに気がついたんだよな。えらかったな」 そう言って麻衣ちゃんを抱き上げると、パパは家に向かって歩きはじめました。 一度帰って麻衣ちゃんの服を着替えさせる為です。 しばらくすると疲れてしまったのか、麻衣ちゃんはパパの胸で静かな寝息をたてはじめました。 その寝顔がとてもママに似ていたので、つい、 「ママ、俺はうまく言えたかな?」 と、聞いてしまいました。 もちろん返事はありません。 「ハハハ…」 パパは恥ずかしそうに笑いました。 少しだけ元気が出たような、そんな気がしました…
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