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(誰かいるっ!)
逸る気持ちが先立つあまり、まったく気付かなかった。念には念を入れて警戒しておくべきだった。どうして気を緩めてしまったのだろうか。彼らの仲間が隠れ潜んでいない保証など、どこにもないのに。
もし先程の物音が、彼らの生き残りだったとしたら――もはや命はない。
もはや身じろぎすらできないまま、横目で薄闇の向こうを確認する。
そこには洞窟から差し込む仄かな光に照らされながら、黒いロングコートを翻している影が静かに佇んでいた。
土埃に薄汚れたそのロングコートは狂楽國の直属のものではない。
血に濡れた鋭利な長剣には国の紋は入っていない。
では、この魔物は一体……
しかし一目で知れるほど、その立ち姿は戦い慣れている猛者で堂々たるものだった。少年の父とは違うがどこか父のそれと似ているところがあった。
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