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怒号、悲鳴――悍ましい音が少年の心を掻き乱す。
心を押し潰さんとする恐怖に必死に耐えながら、ひたすら願い続けた。この恐怖が終わる事を。
……やがて。
その念が途切れる頃には、もうすべてが終わっていた。
(終わった……?)
恐る恐る目を開いた少年は、目の前に広がる光景に凍りついた。
そこは、まるで地獄のようだった。
至るところに転がった手足。
赤に濡れ光る岩壁。
そして――既に事切れた賊どもの死に顔。
思わず目を逸らす。喉の奥まで逆流してきた酸味を強引に飲み下す。ただでさえ疲弊しきっている少年の心に、眼前の惨劇は恐怖を通り越して苦痛すら感じさせるほどだった。
とにかく、ここから逃げなくては。
もう殺される心配はなくなった。なら、もうこれ以上ここにいる理由はない。
早く遠くへ。父様と母様の待つ家に。
そんな焦燥に衝き動かされながら、少年は必死に身を捩る。
ふと、横合いから微かな金属音が聞こえたのは、そのときだった。
再び滲み出た恐怖に、今度こそ身体の自由を完全に奪われた。
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