親衛訓練団

5/32
前へ
/36ページ
次へ
怒号、悲鳴――悍ましい音が少年の心を掻き乱す。 心を押し潰さんとする恐怖に必死に耐えながら、ひたすら願い続けた。この恐怖が終わる事を。 ……やがて。 その念が途切れる頃には、もうすべてが終わっていた。 (終わった……?) 恐る恐る目を開いた少年は、目の前に広がる光景に凍りついた。 そこは、まるで地獄のようだった。 至るところに転がった手足。 赤に濡れ光る岩壁。 そして――既に事切れた賊どもの死に顔。 思わず目を逸らす。喉の奥まで逆流してきた酸味を強引に飲み下す。ただでさえ疲弊しきっている少年の心に、眼前の惨劇は恐怖を通り越して苦痛すら感じさせるほどだった。 とにかく、ここから逃げなくては。 もう殺される心配はなくなった。なら、もうこれ以上ここにいる理由はない。 早く遠くへ。父様と母様の待つ家に。 そんな焦燥に衝き動かされながら、少年は必死に身を捩る。 ふと、横合いから微かな金属音が聞こえたのは、そのときだった。 再び滲み出た恐怖に、今度こそ身体の自由を完全に奪われた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加