5/15
前へ
/15ページ
次へ
グラントは、テラスを突っ切って、クレアの元へ駆け寄った。 「こんな所に座り込んでどうしたんだい?」 顔を覗き込めば、ひどく青ざめている。 今朝、グラントが、とてもよく似合うと褒めた、菫色のドレスの膝の上に、コバルトブルーの魚が載っていた。 「あぁ、この魚は、ブルームーンフィッシュじゃあないかい?」 グラントの言葉に、放心していたようなクレアが、振りむいた。 「グラント様、ご存じなんですか?あまり知られていない魚なんですけど」 その声には、抑えてはいたけれど、隠しきれない不審の響きがあった。 それに気づかないのか、グラントは、周囲へ視線をむける。そこには、同じ魚が何匹も、腹をみせて波間に打ち上げられている。 「どうやら、海の雫だけをはぎ取って、捨てられたようだね」 「それもご存じなんですね。」 クレアが、明らかに警戒した様子で立ち上がり、一歩後ずさった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加