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グラントは、2階の奥まった部分にあるクレアの部屋のドアをノックした。
「はい」
「やあ、そのサンゴ色のドレスもよく似合うね」
グラントは、着替えたクレアにウィンクをした。
クレアは、グラントのウィンクを黙殺して、窓際のテーブルセットへとグラントを導く。
飴色の丸テーブルの周囲を螺鈿細工の幾何学模様がぐるりとはめ込んである。
青みがかった虹色に輝くその部分をグラントは、そっと撫でた。
「このテーブルセットは、エドの好みかな?」
ちょうどティーカップを置こうとしていたクレアは、手元が狂い、カップは大きな音を立てた。
動揺するクレアをそのままに、グラントはテーブルの真ん中に、手のひらに収まるくらいの薄い箱を置いた。濃い茶色の木肌に青みがかった螺鈿で、魚の意匠が彫り込んである。
「開けてごらん」
クレアは、自分の手が震えているのにも気づかない様子で、何度か失敗しながら、箱を開けた。
なかには、シルクの布が張られ、その上に群青色の大きな鱗が乗っていた。
透明に近いブルーが縁に近づくに従って、濃くなっていき、深い海の青へと色を変えている。
「海の雫の名の通り、海そのもののような色だね」
クレアは、グラントの言葉にうなづきながら、そっと鱗に手を触れた。
「これは、エドが持っていたものですね?」
「見覚えが?」
「ええ。私が、彼にプレゼントしたものです。もう、何十年前かしら」
クレアは、グラントの向かいに腰をおろす。
「お話を伺えますか?」
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