夕食会

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 玄関のインターフォンがなった。友世が玄関に出迎えに行くと佐藤夫妻が立っている。 「少し早いけど、何かお手伝いできることがあればと思って」  初榮が言った。 「助かりますよ。友世の服をなんとかしてやってください」 「お任せを」  初榮が頼もしく請け負った。  友世のクローゼットを見た初榮は眼が丸くなった。まず目に入ったのは剣道の道具と木刀が二本。 ジーンズが数本と数枚のカットソー、ダウンジャケットとステンカラーのコートが一着ずつ。 作り付けのクローゼットの中はがら空きだ。 「女の子らしい服はないの」 「去年買ってもらったのが何着かあるけど・・・。急に背が伸びて、みんなツンツンなのよ」  初榮はため息をついた。 「お母さんの服は? ちょうどいいんじゃないかしら」 「あ、そうね。初榮さん、さすが!」  二階は、友世の隣が母の陽子の部屋、その隣が父の部屋となっている。身体を壊してからは、お互いがゆっくり休めるようにという母本人の提案で、三つの部屋の真ん中が、母の部屋となったのである。 「さあどうぞ。ひょっとして着られるかなあと思った服は残してあるから」  友世は、てきぱきとクローゼットの扉を開けた。 「あら素敵」  クローゼットの中には柔らかな色合いのワンピースやブラウス、スカートがふわりと畳まれて収まっている。中をざっと見た初榮は、ワンピースを何枚か取り出して言った。 「これなんか、いいんじゃない」  水彩風に描かれたサーモンピンクの花柄のワンピースを着た、鏡の中の自分の姿を見て、 「ありがとう! 初榮さん」  友世はにっこりとした。  ワンピースを着た友世は、娘らしさが匂い立つようだった。陽子さんが見たら、きっと喜んだでしょうに・・・。 「その髪もなんとかしないと」  初榮は、友世の無造作に束ねた髪をきちんと結い上げ、リップグロスを塗り、眉を整えてやった。 「さあ、どう」 「素敵! ありがとう!」
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