西の空の月

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早く目覚めたから、ベランダに出る。 空はまだ暗い。見上げた西の空に月が。 微かな灯りを放ちながら、申し訳なさそうに、でも懸命に西を照らしているように見えた。 故郷のために、西の街のために、何もできなかった後悔に似た想いが過る。 早朝の月に話しかけた。 「またね。また今夜ね。必ずその姿を見せて。なんでもない、くだらない、日常の平和すぎる話を聞いて!」 早朝の月は相変わらず申し訳なさそうに、浮かんでいる。白んで行く空で、その存在感を失いながらも、懸命に輝いていた。 今夜、必ず日本中の人々が、どの地にいても君の姿を見上げることができるように。 静かに見つめることができるように。 今夜、またその姿を見せて。闇の中で光って。 さあ、日常を始めよう。 寒いけどシャワーを浴びてお化粧をして、お弁当を作って。 シンプルな今日を始めよう。 〈fin〉
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