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高畑さんの良い香りがフワッと鼻をくすぐる。
やばい。雰囲気で心が持ってかれそう。
「…傷心の女を苛める趣味でもあるんですか?」
私はボソボソと小さな声で言った。
「本気なんだけど」
高畑さんのその言葉に心臓が跳ねる。
だ、だめだめ。
流されちゃだめ。
だけど、「手を離して下さい」って言えない。
…ううん、何で言わないんだろ。
むしろ全身が熱い。
しばらくすると、私のアパートに近づいてきて高畑さんに話しかける。
「高畑さん、明日から出張頑張って下さいね。私のアパートもうこの辺なので、ここで結構です」
「近くまで行くよ、危ないから」
「もう、だいぶ近くなので大丈夫ですよ」
「俺に家、知られると困る?」
ちょっと。甘える子犬みたいな顔…こんな時にズルイ。
「そんなんじゃありません…けど」
「なら、自宅の前まで行けばいいよ」
「でも、これから何か寄るところがあるんじゃ?タクシー乗る前に言ってましたよね?」
「あぁ、あれか。あれはウソだ」
「えっ!!」
「君と、一緒にいたかったから。…少しだけ、時間貰っていい? もう少し一緒にいたい」
「え、あ、でも」
「数分でもいいんだけど」
「……はい」
高畑さん、意外に強引だな…
普段はそんな感じじゃないのに、今日は昼間から何か肉食系のような。
結局、タクシーから降りるまで、高畑さんは私の手を離さなかった。
そしてタクシーが行ってしまう。
そしてアパートの駐車場に私と高畑さん。
どうしよう。
「あの、お茶だけでも飲まれます、か?」
逆に軽い女と思われるセリフだったかな…
「いや、もう遅いし。少し一緒にいられたら良かっただけだから。にしても、スーツの紅茶の汚れ、少しマシになってる、良かった」
「えぇ、はい。どうせクリーニングに出す予定だったので。」
「じゃあ、クリーニング代出すよ」
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