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「そんなのいいですよ。私の不注意ですから」
「いや、俺が驚かせて指に火傷までさせてしまった。」
高畑さんは、スーツの胸ポケットから財布を取り出そうとする。
こんな事でお金なんて、困るよ。
「そんな、構いませんから。ほんとにっ」
高畑さんの財布を広げる手を両手でグッと挟んだ。
高畑さんと目があって、焦っていた私は我に返り、パッと手を離すと、一歩下がる。
「ホントに。ホントに大丈夫です」
「じゃ、今度スーツ買いに行こう」
「何言ってんですか。それクリーニング代よりお金かかるじゃないですか!そんな訳にいきません」
「俺がそうしたいんだけど」
「…………」
沈黙がまたやってくる。
冷たい風が吹いた。
近くにとめてある古い自転車の車輪がカラカラ回る。
私達、こんなとこで何を言い合ってるのか…
「…どうしてですか?」
「どうしてか…」
高畑さんは私に大きく一歩近づくと、私を抱きしめる。
「君が…好きだから」
私は背の高い高畑さんの胸にすっぽり入ってしまった。
体全身が心臓になったかと思うほど心臓がうるさい。
驚いて、緊張して、体が動かない。
そう思った時だった。
♪♪~♪♪~♪♪~
私のカバンから携帯の電話の着信音が。
高畑さんは、ゆっくり私を離す。
「携帯、鳴ってるよ」
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