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「離せよっ!」
誠司の声でそう聞こえて私は手を恐る恐る顔から離して2人を見た。
高畑さんが、自分の顔の横で、誠司の拳を鷲掴みにしている。
誠司は拳を掴まれたまま、高畑さんを睨みつけていた。
「お前はもう用無しだ。不安にさせるばかりで元に戻ろうなんて笑止。早く帰れ」
誠司は舌打ちしてから、乱暴に拳をふりほどくと
何も言わず帰って行った。
誠司の影がアパートから遠ざかる。
「高畑さん大丈夫ですか?」
高畑さんじゃない、シンさんだった。
「実は拳を払うつもりが拳を掴んでしまった。
軽く突き指した…。俺も格好悪いな」
シンさんは誠司の拳を掴んだ右手を見ると、ブンブンと手首を振って苦笑いした。
「え!大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それよりアイツに気をつけて」
「はい。」
「俺はまた大通りに出てタクシー拾うから。…じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
シンさんは私の頬を優しく触ると、
私のアパートから去って行く。
シンさんの姿が消えるのを確認してから私は自分の部屋に戻った。
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