正しいタイムマシンの使い方

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―過去1― 「いやあああぁぁぁぁぁぁああああっ!!」  それは、完璧なまでに模範的で、お手本のような悲鳴だった。 「……っわ、鼓膜やべぇ」  そんな声が、私が悲鳴を上げた原因から発せられた。  朝、目を覚ますと、変なお面をつけた男が私のベッドにもぐりこんでいたのだ。  一人暮らしで独身のお酒好きなお姉さんならあり得るシチュエーションかもしれないけれど、私は十六歳の女子高生だ。いったい、どういうことなのだろうか。  真っ先に思いついた仮説は、ロリコンの変質者が侵入したというものだった。上半身を起こし、慌ててパジャマを確認するけど、どこも乱れた様子はない。男も衣服を身に付けている。  それに、私の住むマンションのセキリュティはばっちりだ。どこから入って来たのだろうか。ここは四階だし、まさか窓からなわけがない。  目の前の男は、私の悲鳴の直撃を喰らって、頭を押さえながら呻いている。  今のうちに、もう一度叫んだ方がいいかな。 「きゃ――」  そう叫ぼうとした瞬間だった。  男は左手で頭を抱えながら、右手で私の口を塞いで、 「若菜(わかな)、君を助けに来たよ」  そう言った。  どうして、私の名前を知っているんだろう。もしかして、お面をつけているだけで、本当は私の知っている人なのだろうか。でも、声に聞き覚えはない。  クエスチョンマークが次々と脳内に現れる。  そして、もう一つ。知らない人に口を手で覆われているにもかかわらず、私はなぜか安心していた。 「さて、若菜。色々とわからないことはあると思うけど……」  男は私の口から手をどけて、そう切り出した。まさしくその通りだ。が、危害を加えるつもりはなさそうなので、とりあえず話を聞くことにする。 「君は今、生死の境目にいる」 「は?」  思わず間の抜けた声が出てしまった。 「いつもより暑く感じない?」  ああ、そういえば。寝起きだからというのもあるけれど、それにしては汗ばんでいるような気がする。 「そう……かもしれないです」 「ドアを開けてごらん」  素直に従って、自室のドアを開ける。  目の前に広がっていた惨状を見て、私は息をのんだ。 「……なに、これ?」  廊下が、炎に包まれていたのだ。黒い煙も上がっていたので、私は慌ててドアを閉めた。
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