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―過去3―
「でも、さっき部屋の外を見た感じだと、玄関まで無事にたどり着けなさそう。しかも、ここは四階だし……」
なるべく煙を吸わないようにして外を目指すしかないのだろうか。しかし、あの火力じゃ火傷は免れないだろうし、そもそも玄関まで出たところで、外も燃えていないとは限らない。いっそ、怪我するのを覚悟で飛び降りるか。いや、この高さから飛び降りたら、怪我では済まない。
何が正しいのだろうか。考えれば考えるほど、どの選択肢もバッドエンドに繋がっているように思えて、焦りと不安が再び湧き上がってくる。
「へっ!?」
急に体が宙に浮いたものだから、私は驚いて変な声を出してしまった。
「ちょっと怖いかもしれないけど、我慢してね」
男が私を抱えているということに気づいたのは、彼が私の部屋の窓枠に足をかけたときだった。
「えっ!? 何!? ちょっ、ここ四階だからっ!!」
彼は、そんな私の抗議には耳を貸さず、飛んだ。
お姫様抱っこされながら、約十メートルの落下における被害を想定して目を閉じる。ああ、素敵な男の人と結婚して、かわいくて生意気な子供を三人くらい授かって、そんな幸せな人生を送りたかったなぁ。
さようなら、人生。
私は歯を食いしばった。男の首を掴んで、ギュッと力を込める。もちろん、そんなことをしても意味はないのはわかっていた。
しかし、いくら待っても衝撃はやってこない。まさか、秘められし力が解放されて、時を止めることに成功した? それとも、もう死んでいて実はここは……みたいなオチ?
私がおそるおそる目を開けると、不気味なお面が視界に入った。辺りを見回すと、ちょうど私の部屋の窓の真下だった。男はそこに、何事もなかったかのように立っていた。私をそっと地面に下ろす。
衝撃はまったくなかった。まるで、ワープしたみたいだった。
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