正しいタイムマシンの使い方

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―未来3― 「タイムマシンがもうすぐ完成するんだ」  ある日突然、レストランでの食事中に彼が言った。 「タイムマシン?」  彼は研究者なだけあってSFが好きで、テラフォーミング計画はもう始まっているとか、実は世界の人間のうち、三パーセントは人工知能だとか、そういった突飛な作り話をよく私に聞かせた。  だからおそらく、今回もただのフィクションだろう。彼の想像であり、創造。私も、彼の夢のある話が好きだったため、適度にあいづちをうちながら聞くことにした。 「今から約八十年前、僕の曾祖父がタイムマシンを開発したんだ。理論的には完成しているんだけど、人間が時間旅行をするにはエネルギーが足りない。そういうわけで、黒岩家ではそのタイムマシンが代々受け継がれてて、僕で四代目。これは、僕の大学でもごく一部の人しか知らない」 「それで? タイムマシンが完成するっていうのは、エネルギーが貯まって時間旅行ができるようになるってこと?」  今までの彼の作り話は、かなり漠然とした話だった。しかし今回に限っては、彼の身内や大学がかかわっているという。少し信じてしまいそうになった。危ない危ない。 「その通り。ちょうど今日、時間旅行に必要なエネルギーが貯まるんだ。行けるのは過去だけになっちゃうどね。明日から最終点検を始めて、来週には僕は過去に行く」 「へえ。それなら、過去に行って宝くじ当てれば億万長者だね」 「あはは。たくさんの人が知恵と労力と時間を費やして作ったものだからね。私的なことに使ったらクビになっちゃうよ」  タイムマシンと聞いて、私はあることを思い出した。 「あ! そういえば私、未来から来た人に助けられたことがあるの」  彼の作り話に対して、謎の対抗意識が芽生えていたこともあり、そう切り出した。  私が高校一年生の頃に経験した火事の話を、彼に聞かせた。 「まあ、結局夢だったっていうオチになったんだけどね」  それを聞いた彼の表情が少しだけ曇っていたことを、私は見逃さなかった。きっと、作り話をする自分の役目を私にとられて悔しかったのだろう。
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