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「……あ」
それは失くした宝物を、ふとした拍子に見つけたような気分だった。
久しぶり、だとか。元気だった、だとか。相変わらず綺麗だね、なんて気の利いた言葉を言えれば良かったのだけれど。
久方ぶりに彼女を見た私は、そんな間抜けな声を漏らしていた。
「全然、変わってないね」
風に靡く艶やかな黒髪を撫で付け、彼女が笑う。
またね――別れ際に彼女が笑顔で残した言葉が脳裏をよぎる。
あれから経験と共に積み重ねた苦労が白髪増やし、知恵を絞った回数に比例してシワも増えた。
だいぶ変わったはずだと答えようと口を開き、
「ああ、うん。君こそ変わっていない」
代わりに、たどたどしくお世辞を吐いた。
すると彼女はそんな対応がお気に召したのか、満足げに二度頷いてまた笑う。
「やっぱり少し変わったかもね。良い男になった」
「そう思ってもらえるなら光栄だ」
「ふふっ。色々あったんでしょう? 聞かせてよ。せっかく会ったんだから」
「是非とも。時間は沢山あるからね」
彼女と別れたその日から、私は記憶を紐解いて語ることにした。
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