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彼女は吐息すると、いたずらを思い付いた子供のようにニヤリと表情を一変させる。
相変わらず、表情がころころと変わる人だ。
「さあ、次の話をしてちょうだい。奥さんとの馴れ初めとか」
「知っていたのか?」
「なに言ってるの。あなたが教えてくれたでしょ」
「……そうだったな」
妻はもともと仕事の後輩で、一週間欠勤した私を心配して家を訪ねて来たのが始まりだ。
汚い! 不潔! などと罵りながら、一週間分溜まったゴミやら食器やら洗濯物やらを片してくれたんだ。
その日は彼女に連れられて買い物にも向かってね。
甲斐甲斐しく、料理まで作ってくれたよ。
腕を組み、彼女が唇を尖らせる。
「そんなことで惚れたのかしら?」
「いや、惚れたのは一年後だよ」
「それなら、まあよしとしますか」
どの立場で物を言うのかと言ってやりたい気持ちを抑え、私は話を再開する。
それからはトントン拍子さ。交際を申し込み、デートを重ね、同棲し、プロポーズを終え、互いの両親と顔を合わせた。
子宝にこそ恵まれなかったが、幸せだったよ。
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