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「そう。だったらまだこちらに来るには早いわね」
「選べるものでもないだろうに」
「あら。そうでもないみたいよ」
不意に彼女とぐんと距離が開く。
一歩の距離が二歩へ、三歩四歩と距離はどんどん離れて行く。
何事だと目を見開く私をよそに、彼女は至って冷静なまま告げる。
「逢瀬は終わりのようね」
「まってくれ」
「帰りなさい。帰りたくても帰れなかった私とは違って、あなたはまだ帰れるのだから」
遠くなる彼女へ向けて手を伸ばし、
「私は君を――」
「その先は、まだ言ってはダメよ。またね」
最後の言葉を伝えることは許されず、瞬きの刹那に彼女が消える。
景色が白み、視界が霞む。
意識は段々と遠のいていった。
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