1人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
百瀬玲 1st STAGE
また、今日もチャイムが鳴る。
素敵な贈り物が届いたのかもしれない--あり得ないと分かっていながら、百瀬玲は小さじ一杯程の期待をする。
気付かれないように、カーテンをほんの少し開くと、いつもの記者たちが玄関前にいるのが見えた。
ハイエナを見たことはないが、きっとあんな目をしているんだろうと思った。
1か月前、玲の父が横領で逮捕された。
父は無実を主張し、いまは拘置所で裁判を待っている。
母は、信頼していた父が逮捕されてしまったという事実と、毎日訪れる記者や取材の電話のせいで体調を崩し、入院してしまった。
そして玲は、登校時間を記者たちに狙われないよう、引きこもることにした。
午前中は、家で本を読んだりゲームをしたりして過ごす。
父は趣味でゲームを集めていて、暇を持て余した玲は父のコレクションを端から順番にやっていくことにした。
最初は気がひけたが、ゲームに没頭している間は他のことを考えなくてよいので暇つぶしにはもってこいだった。
午後になると、隣に住むクラスメイトの橘華が食べ物や授業のノートを届けてくれる。
記者と押し合いへしあいをしながら家に入ってくる華に申し訳なくて、これも最初は断ろうとした。しかし、華がいなければきっと玲は自分を保てなくなる気がして、今は完全に彼女の善意に甘えている。
「はい、これ。この前おいしいって言ってたやつ、タッパーいっぱい作ってきた」
「ありがとう」
いつもごめんね、という言葉は禁止である。
「またあのいやなやついたよ」
「鴨志田?」
「そう。もしかして女の子どうしで付き合ってるんですか?ってニヤニヤしながら言ってきて。あいつは人をイラつかせる天才だよ」
なぜ私たちがそのいやなやつの名前を知っているかと言えば、わざわざ華が名刺をもらってきたからだ。
「敵の名前は知っておかないと」母が入院した翌日くらいに華がそう言った。
「敵って」
「ほら、見て。検索してみた」
どうやら彼を敵と思っているのは私たちだけではないようで、彼の強引な取材の批判からはじまり、学生時代はいじめられていたとか、女装癖があるとか、いろいろな噂が流れていた。
「それで華の憎しみは少しは収まった?」
「ぜんぜん」
「だよね」
最初のコメントを投稿しよう!