67人が本棚に入れています
本棚に追加
何ごとが起こったのかと、45階を見上げて集まってくる野次馬の間を、ゆっくりとした足取りですり抜けて、龍一は愛車のシートに尻をすべり込ませる。
車を発進させながら、電話を手にとった。
その相手は、
「おお、珍しいな。2ヶ月ぶりか? また魚でも降るんじゃねーのか」
時間は深夜だが、コール半分で繋がった先は秋場高広。
世界広しと言えど、龍一相手にこんな物言いが出来る男はふたりといない。
しかし龍一は高広の皮肉を、ふと鼻でせせら笑って、
「呑気なやつだな。もうパーティは始まっているぞ」
高広はうんざりしたと小さな息をつく。
「知ってるよ。招待状もなく招かれざる客が、こっちにもお出ましだ」
龍一は、
「郵便事情が悪いせいじゃないか? そんな田舎に引っ込むからだ」
言いながら、ハンドルを思いきり切った。
後輪をロックさせてスピンターンしながら、車の鼻面を中央分離帯の隙間に突っ込ませる。
車体は分離帯の僅かな間をすり抜けて、反対側の車線へと滑り込んだ。
間髪いれず今来た方向に向けてアクセルを踏み込めば、分離帯を越えられなかった追跡者のヘッドライトが、龍一のルームミラーに悔しげに映っている。
最初のコメントを投稿しよう!