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3日目
昨日より早く行けばたくさん話ができる。僕は昨日より早くに駅に向かう。休憩室の扉を開けるとやはり彼女が座っていた。彼女の隣には大きな荷物。
「やあ桜さん、今日はお出かけ?」
彼女はこちらを向いてにこりと微笑んだ後、メモ帳に何かを書き込む。
「春さん、今日で私がここに来るのは最後です」
唐突すぎて意味が分からなかった。
「私、こちらには病気の療養で来ていました。声が出ないのもそのせいです」
何が何だか全く理解できない。彼女は何を言っているのだろうか。
「この3日間はお医者様から外に出てきた方が気分転換になると言われて散歩していた時にたまたまこの駅が目について」
「それでたまたま僕と出会った」
「そうです」
彼女は必死にメモ帳に文字を並べていく。
「私の病気はどうやら悪くなる一方みたいで、昨日大きな病院に移ることが決まりました」
なるほど、それでその大きな荷物。
でもそんな悪い病気の人を1人で、しかも電車で?
「もうすぐ迎えが来ます。我儘を言ってここに来させてもらいました。あなたにお別れを言いに」
「そっか」
それしか言葉が出てこなかった。他に何て言えばいいか分からなかった。
「時間です」
それと同時に駅前に車のエンジン音が響き渡る。
「たった3日間でしたけど、とても楽しかったです。ありがとうございました」
そんな、お礼を言いたいのはこっちだよ。
彼女は荷物を持って休憩室を出て行く。待って。そう声をかけたかった。まだたくさん話したいことがあるんだ。そう言いたかった。
「桜さん!」
彼女が車に乗る直前にようやく僕は声を出すことができた。
彼女はメモ帳を開く。
僕は彼女に声かける。
「またいつか」
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