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病院の待合室は広かったが、千穂理はすぐに見つかった。
隣に制服姿の警官が立っていたからだ。
千穂理自身は変装でもするようにメガネを掛け、
夏だと言うのに首にはスカーフを巻いていたので見分けがつかなかった。
「お姉さんですか」
野村という中年の警官は、
いわゆる苦虫をかみつぶしたような顔をしていて、穂寿美の好きなタイプだ。
セックスを中断してきたこともあり、下腹部がうずいた。
「妹がお世話になりました」
欲望を抑圧して淑女を演じるのには慣れている。
野村は、千穂理がひき逃げ犯を目撃し、帰宅途中に首を絞められたことと、
犯人はその場で逮捕したこと。千穂理の首に絞められた時の内出血はあるが、
命にかかわるようなものではないことを端的に説明した。
「内出血を隠すためのスカーフなのね。でも、ダサいわね。もう少しましなものはなかったの?」
穂寿美が言うと、千穂理が慌てて手を振った。
「看護師長さんが、自分のものを貸してくれたのよ」
千穂理は周囲に看護師がいないか背後を見回した。
「ごめん。それでメガネは?」
「格好が悪いから変装したのよ」
スカーフがダサいという自覚はあるんだと、内心笑う。
首に犯人の指の跡が残っていることにショックを受けていた千穂理が
姉と普通に会話をするのを確認し、安心した野村はその場を去った。
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