蜜心

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「葉沼は俺を見ようともしてくれないんだな」 そんな言葉が口をついて出た。 俺は葉沼をずっと見ているのに。 「………。」 葉沼は一瞬俺を見上げると直ぐに視線を落とす。 伏せられたまつ毛の陰が瞳の下に陰を落として、その姿に目が離せなくなる。 諦められるならとっくに諦めている。 自分を見てくれない相手をおもう程寂しく切ない事はないから。 だけど、名前を呼べは振り返り小さく微笑む姿や、退社の時間が重なり隣を歩く事を拒まれない事に情けないけど体が熱くなるのも事実で。 葉沼の瞳が俺を見てくれたら誰よりも何よりも大切にするのに。 絶対に目を反らすことなく見つめていくのに。 そんな女々しい自分に苦笑する。 それでも瞳を伏せ、悲しそうな表情を見れば俺は笑うしかない。 「ごめん、ごめん。気にすんな。」 「……。」 「自分はモテるな~って思って笑ってれば良いんだよ。」 チラッと見上げる瞳にできる限りの笑顔をむける。 葉沼は申し訳程度に微笑んで俺から視線を外す。 「まぁ…お互い片思いは辛いよな。」 おどけたように体を屈め 覗き込むと 「…そうですね。」 囁くように呟く。 「今度の週末に片思い慰め会でもするか。メシでも食いながらさ!もちろん割り勘で」 そう明るく話す俺を少し驚いたように見上げると肩を竦めて 小さく ふふっと笑った。 「何それ。ホント江藤さんって変わってますね。」 そう言うといつもの明るい人懐っこい笑顔を俺に向けた。 それだけの事に自分の体から緊張が解ける。 はぁ 情ね 別にモテてこない訳じゃなかった。 そこそこ彼女は居たし、それなりにやってきたけど、葉沼に関しては 正直どうして良いのかが、わからない。 テキトーな付き合いしかしてこなかった罰なのかもしれないなんて本気で考える自分に笑ってしまう。
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