KETUI イチョウの木の下で

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 夜、夫が帰ってきた。  定職のない夫は掃除にいったり、工事現場で日雇いの仕事の帰りだ。 私とは二つ違いの 31歳だ。 ジーパンにくたびれたジャンバー。細顔にやさしい目をしていたが、最近は痩せて鋭くなっている。「おかえり」の私の言葉にも、返事もなく疲れた顔で目も合わせようとはしなかった。   口数の少ない夫は、ひどい時は疲れて一週間くらい話さないこともある。  「話したいことがあるんだけど」  キッと、夫は私を睨んだ。  「また 愚痴か。愚痴言うくらいなら実家に帰れ。」  就職できなく、したくないアルバイトを続ける夫はイライラしていた。私に話す言葉が荒い。  家に帰ってきたら癒されるどころか、子供の喧嘩の声に、就職が決まらないことに対する義母の小言。 私も夫が嫌がるのがわかっているが、ついいろいろな不満を我慢できず言ってしまうのだ。  「そうじゃなくて......」  「なんだ!!! 速く 言えよ。」  夫の強い口調に、言おうか迷うが黙っていてもしかたないので話し始めた。  「子供ができたみたいなの」  「はぁ?」  夫は素っ頓狂な 声をだした。  「なんで今なんだよ。いつも コンドームしてるじゃないか。俺の子じゃないってことないだろうな」  「そんなことないでしょう。」  「お前この間まで塾で英語おしえてたじゃないか。 そこの 塾長とかと 不倫していたんじゃないのか。」  「はぁ? なに言っているの?」  臨時で 塾の英語のバイトをしたが, 義母が 自分が出かけたい時出れないから子供みてくれなくて 結局三ヶ月働いて先月やめた。   そこの塾長と不倫? 年も20くらい上なんですけど!  頭に血が昇った。怒りで 手もブルブル震えるが 言葉にならなかった。怒りと同時に過去の悲しみも襲ってきた。
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