のりたまこ。

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あなたの、骨ばった指が、私の額に蓋をしました。 そうすると、波打つ血脈の存在を感じました。 静かに目を閉じて、自分の身体を流れる、熱き血潮に耳をすまします。 穏やかだったものが、徐々にしぶきをあげ、渦をまき、ごうごうと流れていくのです。 あの先へと。 私の額に蓋をしていたあなたの指が、頬に降りてきました。 ゆっくりと目を開けると、心配そうに私の顔を覗きこむあなたの顔。 あなたの前髪が、少しくるっと丸まっているのが、愛おしくて、人差し指でもてあそびます。 肩越しに見える窓からは、月の光が、どくどくと流れこんでいました。 壁をつたい、床をつたい、あなたの足元で小さな水たまりをつくっていました。 私は、はだしの足を浸します。 冷たいそれは、徐々に温まり始め、蒸気し、私達ふたりの影を包み込むのです。 あなたの胸に体重を預けます。 するとあなたの優しい五本の指が、私の髪の毛をすくい、月の光に透かして見せます。 すうっと、月の光に溶け込んでいくので、次第に自分の体も、あなたと一緒に月に飲まれてしまうのではないかと不安になりました。 そんな私の不安を見透かしたかのように、あなたの唇が、私の唇に蓋をします。 舌の上に広がる月を味わいながら、あなたの耳元で懇願します。 「…ねぇ、名前を呼んで。のりおさん」 「…たまこ」 おしまい。
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