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唯が掘り返えせない。そう言い掛けて、僕は口をつぐんだ。唯があと一か月以上、いや何年生きたとしても、彼女はこの隔離された病室から出ることはかなわない。
短い沈黙。顔をあげた唯が、大切な宝物を慈しむように笑って言った。
「一年間だけ、私の事忘れないでいてね。その後は、忘れちゃっていいからね」
「唯……」
ずっと失われていた、元気なころの唯の笑顔。その微笑みにこんな形で再会できるなんて、あまりにも皮肉過ぎる。呼吸をすることさえ忘れそうになっていた僕の意識を、面会時間の終了を告げるブザーが無理やり現実に引き戻した。
「もう行かなきゃだよ、翔太。タイムカプセルのこと、よろしくね」
「わかった。先生にも話しておくよ」
「うん、お願い。またね」
唯の病室を出た僕は、その足で唯の担当医のもとを訪れた。幸い、今日の診察が終わっていた担当医はすぐに僕との面談に応じてくれた。タイムカプセルのことを話すと、少し考えるような表情をして条件付きで受け入れて貰えた。
「イージーの人が手紙を出したり、物を送る時は規則がありまして。丸一日、イージーの菌を殺す部屋に品物を保管させて貰うことになるんです。それでも良ければ、許可します」
「ありがとうございます」
「大事な話、出来たみたいですね」
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