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First Kiss
面会した日の夜にインターネット販売で頼んだタイムカプセルは、速達の項目にチェックを入れたおかげで翌日のお昼には手元に届いた。シルバーに輝く球体は、まるで小さな宇宙船のようである。
バスケットボールよりも一回り小さなカプセルを抱えて、僕は今日も通い慣れた病院への道筋をたどる。電車の振動で小刻みに揺れる小さな丸い球体は、溢れる希望の欠片のようでもあり、破れた夢の跡にも思えた。
「買ってきてくれたのね。ありがとう」
面会した唯はいくらか調子が良さそうで、僕が持ってきたタイムカプセルをガラス越しに見てにっこりと微笑んだ。
「先生に預けておくから、明日には唯のとこに届くと思う」
「うん。それまで頑張って生きていなくちゃね」
「おいおい。勝手な言い方かもしれないし、無責任かもしれないけどさ。余命なんて無視しちゃっても、いいんだよ」
「そうだね、うん。無視しちゃおうかな」
ゆっくりと身体を起こした唯が、僕の前のガラスにすっと手を伸ばした。重ねるように僕も手を伸ばす。今までにないほど速く、ブザーの音が響いた。
「あ、もう終了時間?」
「検診結果、あんまり良くなかったから」
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