1人が本棚に入れています
本棚に追加
「また連絡する」
通話を終了し、男は軽く目頭を揉んだ。
慣れないことをするのは、やはり疲れる。
珈琲でも入れようと席を立ち、ふと少女に声をかけた。
「なあ。ずっと気になっていたんだが、何故お前は時間がわかる? 時計は見えないはずだろう」
久々に男に投げられた質問に、少女は心なしか嬉しそうに微笑しながら顔を上げた。
「私の心臓ね、1秒ごとに脈を打つんです」
「…1秒ごと?」
「そう。1分に60回、1時間3600回、一日に86400回。
ずっと一定のテンポで、脈を打ち続けるの。
気づいてからずっとそれを数えていて、今では寝てる時でも数えられるようになっちゃった」
コロコロとたまを転がすような声で笑い、少女はほんのりと頬を赤らめた。
白い肌が微かに色づくその様子が、不覚にも男にはとても美しく感じられた。
「…何故、数えてるんだ。そんなもの」
素朴な疑問を率直にぶつける。
すると、少女はぴたりと笑うのをやめ、大きな一対の瞳で男の目を真っ直ぐに見つめた。
ガラス玉のような目をしていた。
「そうしていないと、生きていると感じられないから」
そっと息を呑む男。
少女の小柄な、細い身体を見つめた。その内部にある、恐らくは小ぶりな心臓を想像した。
最初のコメントを投稿しよう!