男と少女

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「また連絡する」 通話を終了し、男は軽く目頭を揉んだ。 慣れないことをするのは、やはり疲れる。 珈琲でも入れようと席を立ち、ふと少女に声をかけた。 「なあ。ずっと気になっていたんだが、何故お前は時間がわかる? 時計は見えないはずだろう」 久々に男に投げられた質問に、少女は心なしか嬉しそうに微笑しながら顔を上げた。 「私の心臓ね、1秒ごとに脈を打つんです」 「…1秒ごと?」 「そう。1分に60回、1時間3600回、一日に86400回。 ずっと一定のテンポで、脈を打ち続けるの。 気づいてからずっとそれを数えていて、今では寝てる時でも数えられるようになっちゃった」 コロコロとたまを転がすような声で笑い、少女はほんのりと頬を赤らめた。 白い肌が微かに色づくその様子が、不覚にも男にはとても美しく感じられた。 「…何故、数えてるんだ。そんなもの」 素朴な疑問を率直にぶつける。 すると、少女はぴたりと笑うのをやめ、大きな一対の瞳で男の目を真っ直ぐに見つめた。 ガラス玉のような目をしていた。 「そうしていないと、生きていると感じられないから」 そっと息を呑む男。 少女の小柄な、細い身体を見つめた。その内部にある、恐らくは小ぶりな心臓を想像した。
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