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「でもね、最近疲れてきちゃったの」
小枝のように細い、しかし美しい両脚を少女は投げ出した。
その足首にも鎖は巻き付けられていて、その部分だけが異質に、鈍く光っていた。
「1日中、寝てる時も、起きてからも、86400まで数えるのって、結構大変なんです。
習慣になったら楽だっていうけど、あれは嘘ね。頭の中にずうっと時間があるの。私算数苦手なのに、止めたいって思っても癖になってて止められないし」
ふうっと細く吐いた少女の息が、線となって男に向かってくるような気がした。
薄い唇から、言葉は漏れ続ける。
「自分で止めようともしたんです。でも、やっぱり上手くできなくて。
止めたい、止めたい、止めたい、気が狂いそうだった」
ギシッ。
カチャカチャッ、カチャリ。
「そしたら、おじさんが私をここに連れてきてくれたの」
肩で大きく、息をついた。息を止めていたのだ、と、そこで初めて気づく。
虚ろな空間から、まさぐるように言葉を探した。
「怖く、ないのか」
陳腐な言葉だと、言ってから後悔する。
しかし少女は気にする風もなく、伏し目がちに首をかしげた。
「怖く……はない、かな。」
「どうして」
「……だって」
少女の腕に余る鎖が、宙に浮く。
「ひとりじゃないもの」
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